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第4章 拡張 UML |
最後に,UML の幾つかの拡張について紹介しましょう. UML は,「タグ付き値」と「ステレオタイプ」という2つの拡張メカニズムを持って います.この2つを使うと,UML自身を拡張してより特化した用途に利用することがで きます.具体的には,ステレオタイプ << stereotype >> や タグ付き値 { tag = value } のタグセットを用途別に定めていくことになります. 特に,UML ではステレオタイプにアイコンを結びつけることが可能です.これによ り,強力な表現法が得られます.2章では,<< interface>> プロトタイプをアイコン で表現する方法を見ましたが,これは標準的なステレオタイプアイコンになっています. 拡張メカニズムを用いて,特定の用途向けに UML を拡張したものを,「プロファイル(profile)」 と呼びます.例えば EJB (Enterprise JavaBeans)開発用特化した UML の拡張とし て,「UML Profile for EJB」が存在します. Eriksson-Penkerによるビジネスモデリング一つ目の例は,ビジネスモデリングの分野で注目されている,Eriksson-Penker 法 (*1)です.ビジネスモデリングでは,企業の活動をモデリングします.図1には,ソ フトウェア開発という活動を単純化して,この記法によって表現したアクティビティ 図の例です. <<process>> (プロセス), <<achieve>>(獲得する), <<supply>>(供給する), <<resource>>(資源),<<goal>>(目的)というステレオタイプが使われています.ここでは, <<process>>のステレオタイプアイコンとして,凹6角形の矢印に似た図形を使ってい ます. この図では,「ソフトウェア開発」をプロセス(process)として捉えています.この プロセスでは「要求仕様」を入力とし,「ソフトウェア・システム」を出力としてい ます.その際に獲得(achieve)したい目的(goal)は,「顧客満足」(品質クラスのイン スタンス)であり,このプロセスに供給(supply)される資源(resource)としては, 「開発者」と「ツール」がある,ということを示します.
Jim Conallen によるWebアプリケーション向け拡張]二つ目の例は,Jim Conallen による Webアプリケーション向けの拡張(*)です.これ も,ステレオタイプアイコンによってUMLを拡張しています.Web 画面のようなアイ コンで「クライアントページ」を,ギアのようなアイコンで「サーバーロジック」を 表現しています. この図では,クライアントブラウザに表示されたcpCourseListing という「クライア ントページ」の CourseID を示すリンクがあり,それをクリックすると,サーバー側 で spCourseDetail という「サーバーロジック」が動き,その結果として cpCourseDetail という「クライアントページ」が生成される,という構造が示され ます.
この他にも,OMG では以下のようなプロファイルを策定中です.
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本記事では,まず UML の概要を説明し,UML の基礎を実践例を通して体験して 頂きました.最後には,UML の拡張例を紹介しました. UML の仕様はすでに膨大になっています.あくまでも「コミュニケーションのため」 と割り切って,必要なもののみ要所で使用するのが今風の使い方です.UMLを描くこ とを目的とするのではなく,UMLを手段として使う,といったら分かりやすいでしょうか. この点については,Martine Fowler が正しい指摘をしています.UML のコア機能の みを小さく切り出して,「UMLカーネル」を策定してはどうかという提案です. 特に,最近のソフトウェア開発では開発期間が短くなり,さらに,顧客の要求も変化 しやすくなっています.XP などの方法論も,このようなビジネス環境に敏感に反応 していると言えるでしょう. UMLはあくまでもコミュニケーションのための共通言語であり,ソフトウェア開発を 分厚い仕様書作りと間違えてはいけません.健全で楽しいソフトウェア開発を目指しましょう. ---おわり--- |
参考文献 |
■1. Erich Gamma/Richard Helm/Ralph Johnson/John Vlissides,Design Patterns,Addison Wesley Publishing Company,1995/01/15,ISBN 0201633612 (訳:本位田真一/吉田和樹,オブジェクト指向における再利用のためのデザインパター ン (改訂版),ソフトバンクパブリッシング,1999/10/01, ISBN 4797311126) 通称 GoF本.デザインパターンが23個紹介されている,いわばバイブル. ■2. Martin Fowler,Analysis Patterns:Reusable Object Models,Addison Wesley Publishing Company,1996/09,ISBN 0201895420 (訳:堀内一/児玉公信/友野晶夫,アナリシスパターン-再利用可能なオブジェクトモデル,アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン,1998/06/15, ISBN 4795297258) アナリシスパターンが紹介されている.読みこなすには,かなりモデリングの経験が必要. ■3. Frank Buschmann/Regine Meunier/Hans Rohnert/Peter Sommerlad/Michael Stal,Pattern-Oriented Software Architecture (Vol.1):A System of Patterns,John Wiley & Sons, Inc.,1996/08/08, ISBN 0471958697 (訳:金澤典子/水野貴之/桜井麻里/関富登志/千葉寛之,ソフトウェアアーキテクチャ- ソフトウェア開発のためのパターン体系,近代科学社,2000/11/01, ISBN 4764902834) 通称 POSA本.アーキテクチャパターンも多く紹介されている. ■4. Ivar Jacobson/Grady Booch/James Rumbaugh,Unified Software Development Process,Addison Wesley Publishing Company,1999/01, ISBN 0201571692(訳:日本ラショナルソフトウェア株式会社/監修:藤井拓,UMLによる統一ソフトウェア 開発プロセス―オブジェクト指向開発方法論,翔泳社,2000/03/01, ISBN 4881358367) Unified Process を解説しているバイブル.著者は「スリー・アミーゴ」と呼ばれる UML の元になる方法論を唱えた3人. ■5. Martin Fowler/Kendall Scott,UML Distilled:A Brief Guide to the Standard Object Modeling Language (2nd),Addison Wesley Publishing Company,1999/08/20, ISBN 020165783X(訳:羽生田栄一,UMLモデリングのエッセンス-標準オブジェクトモデリング言語入門 (第2版),翔泳社,2000/04/01, ISBN 4881358642) UML の入門として何か一冊,というなら迷わずこれを薦める,薄い本. Martin Fowler は UML を軽量に用いることを推奨している. ■6. オージス総研,ITマネージャとソフトウェア設計エンジニアのための かんたんUML -オブジェクト指向モデリング言語がわかる本,翔泳社,1999/06/01, ISBN 488135759X 新人: UML ってなんですか? ■7. Magnus Penker/Hans-Erik Eriksson, Business Modeling With UML: Business Patterns at Work , John Wiley & Sons, 2001/01, ISBN 0471295515 (邦訳中) Eriksson-Penkier法の本です. ■8. Jim Conallen, Building Web Applications with UML, Addison-Wesley, I1999/12, ISBN: 0201615770 (邦訳 依田 智夫, 依田 光江, UMLによるWebアプリケーション開発 ピアソン・エデュケーション ; ISBN: 4894712768) Jim Conallen によるUMLのWeb拡張です. |