SPES2005
2005年7月25日(月)に行われた、SPES2005のワークショップで使用した台本を公開します。
ファシリテーションのサイクルには、共有、発散、混沌、収束、発展の5つのフェースがあります。このフェーズのうち、共有、発散、収束に関するコミュニケーションミスをテーマに取り上げ、それぞれの場合において発生しがちなトピックを盛り込んだ3つの台本を作り上げました。
共有のコミュニケーションミス
- 『内容を確認しているか』
- 『ちゃんと聴いているか』
- 『とりあえずハイと言ってないか』
脚本:松本屋 松本潤二
ナレーション:
顧客と開発者が図書館システムの要求について話をしています。
顧客A「タイトルと作者や出版社などのほかにも、細かい条件をつけて検索出来るようにしたいんだ。」
開発A「ハイ」(条件を考えるそぶり、次の話しは聞いていない感じ)
顧客A「いくつか候補を出して今度持ってきてくれるかな」
開発A「ハイ、じゃぁ、ISBNと分類で検索できるようにしましょう。」
顧客A「じゃ、よろしくね」(次回提出を期待)
開発A「ハイ」(さっきの提案で完了)
顧客B「それから、最近は高齢化も進んでいるようで利用者も変化しきているので」
開発B(割り込むように)「若年向けの機能は重要じゃないってことですね。」
顧客A「そこまで極端なことはねぇ、文字サイズを少し大きめにするとか。」
開発A「ハイ、じゃ16ポイントにしましょう」
顧客B「えっ?16って、それって」
開発B(すかさず)「ウチのバァちゃんでも、これくらいあれば見えますよ」
顧客A,B「・・・・」
以下、ナレーション:
一見テンポ良く話しが進んでいるように見えますが、意思の疎通が取れてないみたいです。
検索条件の話題では、顧客が「今度持ってきて」と要求しているのに対して、開発者は「会話中の提案」で完了したと誤解しているようです。
「ハイ」と言う返事がミスコミュニケーションを誘発しているようです。相手の話しをまず最後まで聴き取る必要があります。その上で、相手の言葉を「次回持って来ればいいですね」と復唱しつつ相手に訊き返し、共有するように心がけましょう。
高齢者の話題では、顧客の話しの一部に過剰に反応し、早合点してみたり決め付けたりしています。おまけに意味不明の説明で締めくくってます。
今回のケースでは顧客は、ちゃんと自分の話しを聴いてもらったと感じる事ができ ません。また、開発側は今後、言ってる事が変わってきたと感じるでしょう。こう
なってしまっては、双方の関係が加速度的に信頼できない方向に向かってしまいます。
どちらのケースも、双方の頭の中で話しを進めるのではなく、双方の中央に話題を置く感じで、ホワイトボードなどに書き出したりして、全員で同じイメージや情報を共有しながら意見交換をする事で、上手に合意形成することができます。
発散のコミュニケーションミス
- 『発言をさえぎる』
- 『否定形の発言』
- 『肯定する言葉を入れる』
脚本:株式会社 豆蔵 江川 崇
ナレーション:
顧客と開発者が図書館システムの要求について話をしています。
顧客A「タイトルと作者や出版社などのほかにも、細かい条件をつけて検索出来るようにしたいんだ。」
開発A「でも、この期間を考えるととても無理ですよ。」
顧客B「しかし、インターネットでの検索など、他にも様々なニーズがあって、それらも実現したい・・・」
開発B「(さえぎるように)じゃなくて、現実的に実現できるかどうかを考えないとダメだと思います。」
顧客A「うーん、私としてはなるべく利用者のニーズを汲んで欲しいと思っているんだけどね。」
開発者A「そうおっしゃるのであれば言わせて頂きますが、我々には期間内に動くものを提供するというミッションがありますので、なんでもお受けするという事は不可能です。」
顧客A,B「・・・・」(首を振ったり天を仰ぎ見たりする。)
ナレーション:
開発者の皆さんは、期間を考えた時にお客さんの多様なニーズを満たせないと見積もっているようです。
リリース計画にどこまで含むのかを今の段階で話し合っておくことは非常に重要なことですが、どうもお客さんは納得していない様子、ついにお客さんは黙ってしまいました。
今のやり取りを振り返ってみると「でも」「しかし」「じゃなくて」「ダメ」「不可能」など、否定的な言葉が目立ちます。
このような否定形の発言を用いると、相手は自分の意思を全面的に否定された気になり、対立を生んでしまいがちです。
また、相手の発言が終わるのを待たずに発言してしまうことも、相手にとっては意思を軽視されているような気分になります。
さらに、「そうおっしゃるのであれば言わせて頂きますが」という発言は、一見丁寧な言い方のように感じますが、聞き手には非常に皮肉っぽく聞こえ、気分を損ねる元となります。一旦気分を損ねてしまうと、その場での議論に感情が入るようになり、非建設的な水掛け論となる傾向が強いものです。
そこで、対立するような意見を言う場合であっても、相手の意思は意思として尊重し、肯定した上で発言するよう心がけましょう。
例えば今回のような場合には
「なるべく多くのニーズを実現するためにも、ニーズを明確化して優先順位をつけるなどし、現実的な期間やコストからどのように実現するかを考えていくように相談させてもらえませんか?」などです。
収束のコミュニケーションミス
- 『短絡的に話題を収束させる』
- 『誘導している(中立ではない)』
- 『Closed Questionを多用している』
- 『個人攻撃をしている』
- 『相手を尊重する』
脚本:株式会社 永和システムマネジメント 天野 勝
ナレーション:
顧客と開発者が図書館システムの要求について話をしています。
開発側は、自社で開発した「全文検索エンジン」の適用事例を増やしたいという、社内方針が出ています。
顧客A「タイトルと作者や出版社などのほかにも、細かい条件をつけて検索出来るようにしたいんだ。」
開発A「なるほど。詳細検索ができればよいんですね?」
顧客A「まぁ、そんなところかな。」
開発A「じゃ、項目とか関係なく、全文検索できるようにしましょう。弊社にはこの技術がありますので、それを使えば開発の期間を短縮できますよ。納期が早いほうがうれしいですよね?」
顧客A「まぁ、そうに越したことはないのだが・・・」
開発A「ですよね。項目ごとに検索できるようにするのって、検索用の情報を入力しなくてはならないので、運用するのが大変ですよ。いちいち、データを入力するのって大変だから、避けたいですよね?」
顧客B「まぁ、そうなんですが、検索で引っかかる本が増えてしまって、探したい本にたどり着くのに苦労するって聞いたことがあるのですが。」
開発B「どこで聞いたかは知りませんが、私たちはシステム開発のプロです。お客様は、私たちよりシステム開発のこと詳しいですか?」
顧客B「いや、そんなことはないけど・・・」
開発B「だったらお任せください。苦労するという話は聞いても、それが問題となっているという話は聞いたことありますか?」
顧客B「ないけど」
開発B「ですよね。これまで、そんな苦情は発生していませんので、安心してください。」
顧客A「本当の利用者からその検索について、生の声をどうやって聞いたの?」
開発A・B(困ってしまう)
ナレーション:
開発側は、自分たちの得意分野に引き込めるように、話を誘導しようとしています。このようなときには、「Yes/No」で答えるようなクローズドクエスチョンを多用するという傾向があります。このような質問が続くと、不信感が積もりやすくなります。さらに、「こちらはプロなので、あなたたちの知らないことを知っている」といった態度で顧客と接してしまうと、信頼を築くのはどんどん難しくなってしまいます。
顧客側は、開発側の話に信憑性がないと感じたのか、うそをついているかを見るために、具体的にどのように行ったかという、「Yes/No」で答えられない、オープンクエスチョンを使うことで対抗しています。このような状況に追い込まれたら、開発側も不信感を抱くことでしょう。