濱井です。
2003/02/21 22:06:20 +0900にhiroki kugimotoさんが送られた
メールに関する返信です。
>> 歴史上、取り巻く環境が変化しているにもかかわらず戦略を柔軟に変更しなかった
>> ために破れた実例は枚挙にいとまがありません。旧帝国海軍しかり、戦国時代の武田家しかりです。
>>
>>
>> 「水は高いところから低いところに自然に流れていく。常に一定の形をしている訳ではない。
>> 地形に従って水が流れを変えるように兵の形も状況に応じて変わるべきである。」
>> というのが、孫子のいう「兵の形は水に象る」の意味です。
>> ここでいう「兵の形」が、「戦略」あるいは「戦略」を含むものと解釈できるか否か
>> と言う問題ですが、これはYESです。
戦略は、水の流れのように変えられるものでも、変えるべきものでもないと
思います。
単なるペーパープランとしての戦略ならばともかく、軍隊が実際に遂行
している戦略を簡単に変えられるものではありません。
例えば、旧帝国海軍の大艦巨砲主義から航空主兵主義への転換が遅かったのは
事実ですが、そう簡単に転換できるものでもないです。
航空機を大幅に増やすのはお金と時間がかかります。それを操縦する
パイロットを増やすのはもっとお金と時間がかかります。航空機を大量生産
するための産業基盤が当時の日本では貧弱でした。クルマもバイクも運転した
ことのない当時の多くの日本兵をパイロットに育てるのは、ほぼ100%クルマを
運転できたアメリカ兵をパイロットに育てるのより時間を要しました。
『孫子』では、戦争に大変なコストがかかることから、戦争自体を
戒めています。戦略を安易に変えることはこれに反します。
戦略の変更中は、戦略が存在しないような状態に陥る危険性があります。
戦略に固執して変更しないと同じくらい、安易な戦略変更は有害です。
>> 孫子に出てくる「兵」という言葉は「戦略」も「戦術」も「政略」も「作戦」もあらゆる
>> 軍事用語を包含し、大は「国家」から小は「個人」に至るまでを抽象化した言葉です。
『孫子』では、戦争や戦闘、軍隊という意味で「兵」という言葉を使っている
ように思います。「兵」を戦略や戦術、政略、作戦といった意味で解釈しない
と意味が通らないような箇所は見あたらないと思います。
>読み返してハッと気付きました。
>
>> 「水は高いところから低いところに自然に流れていく。
>> 常に一定の形をしている訳ではない。
>> 地形に従って水が流れを変えるように
>> 兵の形も状況に応じて変わるべきである。」
>とは、戦略か戦術かなんて後付けでされるであろう評価は関係なく、先入観を排
>して虚心ですべき事を判断し速やかになせ、という事でしょうか。
充分に訓練された規律正しい軍隊でなければ、戦場で指揮官の柔軟な指示に
従って行動できないでしょう。充分に訓練された規律正しい軍隊を作るには、
時間とお金がかかります。充分に訓練された規律正しい軍隊を持つという
「戦略」を実施するには時間とお金がかかります。
ソフトウェア開発においても、優れた技術者を確保するという「戦略」を
実施するには、時間とお金がかかります。育てるにせよ、外部から採用する
にせよ、かなりの時間とお金がかかります。
あと、「戦略か戦術かなんて後付けでされるであろう評価」って、当時、戦略
とか戦術という言葉自体無かったはずです。『孫子』にも出てきません。