濱井さん
鷲崎です。
[XP-jp:02697]
>[XP-jp:02685]
>> 同様に、濱井さんのご指摘にあった上記における "同じ生産物を作る、
>> 同じプロセスで作業を遂行するといった" 前提は、テイラリズム
>> (科学的管理法)には無いように思います。
>
> 全体としてか、要素としてかは別にして、同じ生産物とも同じプロセス
> とも見なせなかったら、どうやって管理対象の優劣を判断するのですか?
> 優劣を判断せずに、どうやって管理が妥当だったか否か検証する
> のですか?
> 妥当性を検証できないような「宗教的」管理法では、とても使い物に
> ならないでしょう。
まず、テイラー自身による主張の範囲内での科学的管理法の前提ですが、
「科学的管理法の有効性がテイラーによって実証された例が主に、
同じ物を生産するような製造工場および単純な労働環境であった」
という旨を先の [XP-jp:02685] 中で記述しました。
テイラーが科学的管理法を応用可能と主張する他の領域(例えば、家庭の管理)
について、テイラー自身はその有効性を検証した実例を示していませんが、
"あらゆる社会活動について応用可能である" と主張しています([Taylor57])。
続いて私の考えですが、過程全体あるいは最終成果物がその都度
異なるような社会活動であっても、活動全体を構成する個々の要素に
ついて、過去の知識から類推してほとんど過去のものと同様に
為される基本活動が含まれる可能性があります。
活動全体においてそのような基本活動の占める割合が大きいような
社会活動については、その(部分的な)管理に科学的管理法を有効に
用いることができる可能性があると考えています。
この、科学的管理法を有効に用いることが出来ると私が考える前提は、
[XP-jp:02657] 中で指摘されている、"同じ生産物を作る、同じプロセスで
作業を遂行するといった前提" に近いものと考えております。
この点につきまして、私は濱井さんの主張に同意いたします。
しかしながら、そのような基本活動そのもの、あるいは、基本活動を
含む活動全体が "同じ生産物を作る、同じプロセスで遂行される" ものと
認知されているとは限らないと考えます。
[Taylor57] 中の "時間研究の適用範囲わ広い" の節から、
テイラー自身による上記に関連する記述を以下に引用します。
[Taylor57]
> 私わかつて優秀児と普通児が数学の問題を解く速さについて時間研究を
> したのを見たことさえある。事務もまたこれを時間研究に附することが
> できる。事務わ一見してその性質が極めて雑駁なように思われるけれど
> も、やはり時間研究によって日日の過程をきめることができる。
"その性質が極めて雑駁なように" 思われるため、同じ生産物を作るとも
同じプロセスを経るとも認知されていない社会活動について、その管理に
科学的管理法の一部(例えば時間研究)を適用し、得られた結果から推論
することで、元の社会活動全体(または一部分)が、同じ生産物を作る、
あるいは、同じプロセスを経るものと認知されるようになる可能性がある
と思います。
[XP-jp:02697]
> 同じ生産物でも同じプロセスでもないのに管理できるとしたら、
> 作曲したり、小説を書いたり、学術研究したりすることもテイラリズム
> で管理できるということになりませんか?
従いまして、作曲したり小説を書いたりするような、同じ生産物を作る、
あるいは、同じプロセスを経ると現段階では認知されていない社会活動に
ついても、科学的管理法が有効な可能性を否定できないものと考えます。
[XP-jp:02657]
> 「Coding Standars」などの文書標準や時間の見積もりって、XPに
> 限らず、ソフトウェア開発のプロジェクトでは、ごく普通のことでは?
> 無用の混乱を防ぐための標準化は、現在のほとんどのビジネスで普通の
> ことだと思いますし、時間の見積りを行わないビジネスなど想像するのも
> 困難です。
[XP-jp:02697]
> コーディング標準や時間の見積りは、ソフトウェア開発においてXP*だけ*
> の特徴ではない、と言っているつもりですが。
[XP-jp:02657] では "ソフトウェア開発のプロジェクトでは" と記述されて
いましたが、[XP-jp:02697] 中では "ソフトウェア開発において" と記述
されています。
私が [XP-jp:02685] を投稿する時点で参照した内容は [XP-jp:02657]
ですので、"ソフトウェア開発のプロジェクトでは当たり前" ということを
意味するものと判断しまして、[XP-jp:01844] を引用した以下の記述が
私の考えとなっています。
[XP-jp:02685]
> ソフトウェア開発の現状として、同じチームやプロジェクト内で用いるコーディング
> 規約やエディタが統一されていないことがよくある [XP-jp:01844] からこそ、
> XP ではコーディング標準を "ごく普通のこと"ながら解決策として明示しています。
>
> 一方、19 世紀の後半や 20世紀の初頭において、労働者が用いる工具が標準化
> されていなかったからこそ、科学的管理では道具の標準化を解決策として
> 明示しています。
XP に限らず、他のソフトウェア開発手法も同様に、作業従事者が用いる道具・
道具を用いた表現方法を標準化せよと提案している、というご意見であれば、
私は同意いたします。
以上です。
参考文献
[XP-jp:02657] Re: XP と Taylorism
http://objectclub.esm.co.jp/ml-arch/extremeprogramming-jp/2600/2657.html
[XP-jp:02685] XP と科学的管理法(Re: XP と Taylorism)
http://objectclub.esm.co.jp/ml-arch/extremeprogramming-jp/2600/2685.html
[XP-jp:02697] Re: XP と科学的管理法 (Re: XP と Taylorism)
http://objectclub.esm.co.jp/ml-arch/extremeprogramming-jp/2600/2697.html
[Taylor57] F.W.Taylor 著, 上野 訳, "科学的管理法", 技報堂, 1957
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鷲崎 弘宜 washi@....jp
http://www.washizaki.net